抄録
これまで、トキシコロジストは新医薬品の製造承認取得のためGLP安全性試験に尽力し、有効で安全な医薬品創製に貢献してきた(GLPトキシコロジスト)。その後、創薬システムが高速化・効率化されるようになると、トキシコロジストは医薬創製・探索段階から医薬開発研究に関与するようになってきた(創薬探索トキシコロジスト)。しかしながら、現状の医薬品承認制度において100%安全な医薬品は存在しない。あるのは医薬品の安全な使い方のみである。このためPMS安全性情報がフィードバックされ、製薬メーカーや医療従事者の対応により安全性の確保が行われている。これからのトキシコロジストは、市販後の安全性の確保においても貢献することが求められている(育薬安全トキシコロジスト)。国民の医薬・医療安全を付託されているトキシコロジストとしては、臨床サイドからもたらされる医薬品安全情報を整理確認し、これからの新しい職能を広げるべく発現機序に関しても解明を試みる必要がある。そのためには、何よりもまず大学教育でトキシコロジーに関連する基礎的知識や学問を修得しておかなければならない。大学でトキシコロジー教育が行われる学部は、毒性学・薬理学・衛生学・公衆衛生学・栄養学講座等を有する学部が主要であろう。我が国でこれらの講座が設置される学部は、医学部、歯学部、獣医学部、薬学部、農学部、衛生学部,看護学部、水酸学部、栄養学部、保健学部、家政学部、教育学部などであり、多岐にわたる学部に毒性学関連の講座が設置されている。本学会員はこれらの学部のうち、薬学部,獣医学部、農学部、医学部出身者で大半を占めることから、薬学部および獣医学部での事例を中心に、大学でのトキシコロジー教育について現状を述べる。