日本トキシコロジー学会学術年会
第33回日本トキシコロジー学会学術年会
セッションID: EL-2
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教育講演
新しい視点から見たトキシコロジー:発生・成長・老化
*井上 達
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抄録
トキシコロジーの歴史は鏃の毒をもって始まり,15世紀のパラケルサスの言葉を用量-反応関係の礎石とする.しかし実際のトキシコロジーの主たる各種毒性試験法ガイドラインの発端は1960年代初頭のサリドマイドの悲劇にはじまる.数千人の子供が深刻な先天性奇形を伴って生まれた.警鐘は医薬品にとどまらず62年にはR. カールソンが「沈黙の春」を著し,工業化学物質に対する毒性の監視が始まる.
安全性に視点をおいたトキシコロジーの歴史は半世紀にすぎないがこの間の発展にはめざましいものがある.トキシコロジーは, 実験動物学に加えて,水生動物や鳥類などの生態学,細胞生物学,分析化学,遺伝学などを構成要素とする学際科学へとなり,試験法は,急性,亜急性,慢性の各毒性試験をはじめ,神経毒性,免疫毒性,循環器毒性などの各論分野を整え,さらに各種の発がん性バイオアッセイ系を完成した.
ここで生まれた毒性試験法の本領は,全的(Global)科学として生体・異物相互作用を網羅的に見落としなくスクリーニングすることにある.トキシコロジーは,用量作用関係の線形仮説により,閾値の設定,無作用量の推定など,「見ることの困難な概念」の算出を可能にした.その延長線上で,人類は発がんのメカニズムが分からないままでも,発がん性の予測が可能となる.
トキシコロジーは,近年,要となるあらたな課題への回答を迫られている.核家族化の進行と相俟って,人々の子供に対する眼,ジェンダー問題を含むその人生観,老年社会化に伴う長い老後,そうした諸々の変化で価値観も変化している.その狭間でトキシコロジーへの期待も変化している.人々はQualityへの希求が強くなっているし,これによりトキシコロジーにも変化(とりわけ質の高さ)が求められつつある.トキシコロジーに求められる高い質とは?これに応えるにはトキシコロジーはどんな対応をとればよいのだろう?
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© 2006 日本毒性学会
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