日本トキシコロジー学会学術年会
第34回日本トキシコロジー学会学術年会
セッションID: P-3
会議情報

毒性発現機序
コリントランスポーター機能阻害による薬物誘発性肺毒性
*佐藤 紀宏石黒 直樹大薮 正順前田 智司玉井 郁巳
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

 ゲフィチニブなど様々な薬物が間質性肺炎などの肺毒性を引き起こすことが知られているが、その発症機構は明確ではない。我々は肺サーファクタント成分の大部分を占め、肺機能を維持するために不可欠なホスファチジルコリン(PC)異常がその原因の一つではないかと考えた。PCは2型肺胞上皮(AT2)細胞で生合成され、肺胞内に分泌される。PC前駆体コリンの血液中から細胞内への供給がPC生合成の第一段階であるが、本検討ではまず、肺毒性を示す薬物がAT2細胞へのコリン供給に働くトランスポーターを阻害し、その結果肺サーファクタント異常が生じるという仮説を考えた。
 本仮説について、ヒト肺胞上皮細胞由来A549細胞および初代培養ラットAT2細胞を用いて検討を行った。まず、A549細胞およびラットAT2細胞でコリン取り込みに関与するトランスポーター分子の同定を試みた。両細胞でのコリン取り込み特徴は、既知コリントランスポーターの中でもcholine transporter-like protein (CTL)1に類似していた。また、CTL1阻害剤hemicholinum-3や、CTL1 siRNAはA549細胞におけるコリン取り込みを低下させた。更に、RT-PCRにより両細胞でCTL1の発現が確認された。以上より、AT2細胞でのコリン取り込みに働くトランスポーターはCTL1であることが示された。一方、A549細胞およびラットAT2細胞によるコリン取り込みは、ゲフィチニブなど数種の肺毒性を示す薬物により阻害された。さらに、ゲフィチニブは細胞外から供給されるコリンのPCへの組み込みを低下させた。
 以上より、PC生合成に関わるコリントランスポーター阻害が薬物の肺毒性の一因になりうることが示された。さらに、その他のPC生合成過程の阻害も薬物の毒性発現機構として関与することが考えられ、各過程への薬物の影響の検討が必要である。

著者関連情報
© 2007 日本毒性学会
前の記事 次の記事
feedback
Top