日本トキシコロジー学会学術年会
第34回日本トキシコロジー学会学術年会
セッションID: P-6
会議情報

毒性発現機序
大気中微小粒子成分によるERK1/2シグナル伝達経路の活性化
*岩本 典子張 壁伊角 大悟熊谷 嘉人
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

喘息などの慢性的な呼吸器炎症の特徴である粘液 (mucin) の異常分泌は、上皮成長因子受容体 (EGFR)を介したシグナル伝達経路によって制御されているMUC5ACの転写活性化によって引き起こされる。また喘息時の呼吸器上皮において重症度の度合いに依存してEGFRの発現が増加する。このように喘息様疾患にはEGFRの発現及び活性化が深く関与している。当研究室では、大気中微小粒子成分として見出された1,2-NQが、モルモットの気管組織のEGFRを活性化することから、1,2-NQによるEGFRの活性化が喘息様疾患の要因のひとつになりうる可能性を示唆してきた。そこで本研究では、1,2-NQによるEGFRシグナル伝達経路の活性化を肺上皮細胞(A549)を用いて検討した。
1,2-NQをA549細胞に曝露した結果、EGFRの自己リン酸化が見られた。同条件下においてMEK1/2及びERK1/2の活性化も観察された。しかしながら、同様のMAPキナーゼであるp38及びJNK1/2の活性化は検出されなかった。1,2-NQによるMEK1/2、ERK1/2の活性化はEGFRの阻害剤 (PD153035) で有意に抑制されたことから、MEK/ERKの活性化はEGFR依存的であることが明らかとなった。1,2-NQはEGFRのリガンドであるEGFなどの通常のシグナルとは異なり遷延的にEGFR/MEK/ERKを活性化した。
以上の結果より、1,2-NQは肺細胞においてERK1/2のシグナル伝達経路を特異的に活性化することが明らかとなった。EGFR依存的なERK1/2の活性化はMUC5ACの活性化を主に制御していることから、1,2-NQはEGFRシグナル伝達経路活性化を介してMUC5ACの転写活性化を促すことが考えられる。現在、1,2-NQによるMUC5ACの転写活性化に関して検討中である。

著者関連情報
© 2007 日本毒性学会
前の記事 次の記事
feedback
Top