抄録
近年、医薬品や化粧品など身体ケア製品由来の化学物質(Pharmaceuticals and Personal Care Products: PPCPs)が国内外の水環境中で高頻度に検出され、新たな環境汚染物質として注目され始めている。これらは大量に消費され、河川・海洋に排出されるため、水生生物は直接的な影響を受ける可能性が考えられるものの、毒性影響に関する知見は少ない。本研究では、PPCPsの水圏における生態リスク評価の端緒として、魚類および甲殻類を対象とした急性毒性影響を調べた。
試験物質には、解熱鎮痛消炎剤、抗てんかん剤、抗不整脈用剤、消化性潰瘍用剤、抗真菌剤、抗生物質の計14種類を用いた。供試生物には、魚類としてヒメダカOryzias latipesふ化後24時間以内の仔魚を用い、96時間急性毒性試験を行った。また甲殻類としてタムノThamnocephalus platyurusを用い、Thamnotoxkit Fによる24時間急性毒性試験を行った。それぞれの急性毒性試験から得られた結果はプロビット解析を行い、96h-および24h-LC50値を算出した。
14種類のPPCPsのうち、解熱鎮痛消炎剤、抗てんかん剤、抗不整脈用剤の5物質 (Ibuprofen, Mefenamic acid, Indomethacin, CarbamazepineおよびPropranolol) において毒性影響が認められた。その中でもMefenamic acidは両供試生物に対して最も強い毒性を示し、96h-および24h-LC50値はそれぞれ8 mg/l、4 mg/lと算出された。これら供試生物種間における毒性学的感受性を比較したところ、ヒメダカ仔魚に比べてタムノの方が概してPPCPsに対する感受性が高く、オクタノール/水分配係数の高い順に強い毒性がみられた。しかしながら、Carbamazepineはタムノと比較してヒメダカに対する毒性が高く、生物種間での毒性機序の違いが考えられた。今後これらの作用機序解明を含め、長期曝露による水生生物を中心とした生態リスク評価を行う必要がある。