主催: 日本トキシコロジー学会
アセフェートは有機リン系殺虫剤の有効成分であり、暴露時の急性症状として縮瞳、筋痙直、発汗、吐き気、めまい、痙攣等が知られている。またアセフェートは、アセチルコリンエステラーゼを阻害するとともに、遅延性神経毒性(OPIDN: Organophosphate-induced Delayed Neuropathy)に対する注意が喚起されている。本研究では、アセフェートによる神経行動毒性機構の解明を目的として、生後11週齢のC57BL/6雄マウスにアセフェートを単回経口投与(70mg/kg)し、行動解析を行うとともに、投与から24時間の間に生じる脳内遺伝子発現の経時的変化についてPercellome手法を用いて解析した。 アセフェート投与1-2日後のオープンフィールド試験および明暗往来試験では変化は認められなかったが、投与3-5日後の恐怖条件付け試験で、海馬依存性が高いとされる空間-連想記憶および海馬-扁桃体依存性が高いとされる音-連想記憶に著しい低下が確認され、アセフェート暴露による遅延性神経毒性として記憶障害が示された。投与後2、4、8、および24時間後における大脳および海馬域の遺伝子発現についてPercellome手法を用いて解析した結果、神経細胞の可塑性調節に関与すると考えられるserum and glucocorticoid inducible kinase (sgk) 遺伝子誘導が確認された。以上の結果から、アセフェート暴露は遅延性神経行動毒性として記憶障害を引き起こす危険があると判断できるとともに、その毒性発現機構として、SGKパスウエイのかく乱を起点とする神経細胞機能低下が関与すると考えられた。(本研究成果は厚労科研費「H18-化学-一般-001「化学物質リスク評価の基盤整備におけるトキシコゲノミクスの利用に関する研究」によるものである。)