抄録
【目的】我々は、Wistar-Imamichi (WI)系の雄性ラットがFischer344(F344)系の雄性ラットと比較してカドミウム(Cd)の急性肝毒性に対して強い抵抗性を示すことを明らかにしてきた。今回は、Cdに対して極めて強い感受性を示す組織である精巣に焦点を絞り、WI系およびF344系の雄性ラットを用いて、精巣毒性においても系統差が認められるかどうか調べた。さらに、Cdによる精巣毒性発現に対する亜鉛(Zn)投与の影響についても検討した。
【方法】実験動物:近交系のWI系およびF344系雄性ラット(9週齢)を使用した。金属の投与:CdCl2単独またはCdCl2とZnCl2を同時に皮下投与し、24時間後に以下の項目について実験を行った。ヘモグロビンの測定:精巣中ヘモグロビンはNiewenhuisとProzialeckの方法に従った。MT濃度の測定:MT濃度はNaganumaらの方法に従った。金属の測定:組織を湿式灰化後、ICPまたは原子吸光光度計を用いて測定した。
【結果および考察】先ず、精巣毒性発現の系統差を比較検討した。精巣障害の指標であるヘモグロビン濃度は、F344系ラットにおいてのみ有意な上昇が観察された。また精巣へのCd蓄積量は、F344系ラットの方がWI系ラットよりも高い値を示した。MT濃度は、すべての投与群においてWI系ラットの方がF344系ラットよりも有意に高い値を示した。次に、F344系ラットにCdとZnを同時投与したところ、Cdを単独投与した場合と比較して精巣毒性は著しく軽減され、このときの精巣中Cd蓄積量は有意に減少した。これらの結果から、WI系およびF344系ラットにおいて認められるCdの精巣毒性の系統差は、精巣へのCd蓄積量とMT濃度に起因すること、またCdの精巣への蓄積量に系統差を生じる原因としては、一部Zn輸送系の関与が推察された。