抄録
【目的】全身麻酔薬は導入もしくは覚醒の段階で悪心・嘔吐を引き起こすことが知られている。これをPostoperative nausea and vomiting(以下 PONV)という。手術侵襲とそれに伴い投与される麻薬性鎮痛薬も起因するとされる。欧米ではPONVの発症に対し積極的な予防治療策がとられているがPONVの発症要因に迫る知見は得られていない。生体内アミン類は悪心・嘔吐、シバリング、発熱などに関与していると言われている。本研究は手術を行う患者の使用薬剤等の背景因子調査と、尿中の生体内アミン濃度の変動を解析し、PONVの発症機序の解明とPONV発現の予測への可能性について検討した。
【方法】全身麻酔で乳房摘出手術を受けた女性のみを対象とした。同意の得られた39名の対象者のPONV発症有無、年齢・身長・体重・動揺病及びPONV既往歴・喫煙歴・術式・手術時間・麻酔時間・手術に伴い使用した薬剤を記録した。さらに対象者の手術開始時及び終了時に尿を採取しHPLC-ECDを用いて尿中インドールアミン、カテコールアミン類の濃度を測定した。
【結果】39名中15名にPONVが発現した。PONV発症群は、PONVを発現しなかった群に比して術後の尿中カテコールアミン類が有意に高値を示した。インドールアミン類はPONV発現群で術後に増加傾向を示した。背景因子を比較するとPONVの発症は術後疼痛の訴えならびに受動喫煙環境におかれた患者に関連性が疑われた。
【考察】術後の尿中カテコールアミン類ならびにインドールアミン類濃度の上昇はPONVの発現と関連している可能性を明らかにした。麻酔薬等の薬剤や手術の侵襲による神経系の活性化がPONV発現リスクを高めていることが考えられる。今後日本では保険適用されていない5-HT3受容体やNK1受容体拮抗薬等の有用性が期待される。受動喫煙でPONV発症リスクが高まるなど、日本人特有の背景因子も存在している可能性が明らかとなった。