抄録
【目的】カニクイザルを用いた安全性試験を遂行する上で、動物の感覚機能を一般状態観察などから得ることは大変難しい。そこで、今回、ヒトの聴覚検査で多く用いられる聴性脳幹反応(以下ABRと略)を用いて聴覚機能の検討を行った。カニクイザルを用いたABRの報告例は少なく、ヒト、アカゲザル、ラット及びイヌなどのABRを参考にした。〈BR〉
【材料及び方法】雌性カニクイザル17頭(5~7才齢)を使用してシールドルーム内でクリック音刺激によるABRを記録した。動物は塩酸ケタミン+キシラジン混合液(3:1)の麻酔下(0.2 mL/kg S.C.)、腹臥位で記録した。記録中は体温保持を行い、体温下降を1℃以内にとどめた。ABRは誘発電位装置MEB-9102を用いて、クリック音(0.1 msec短形波)を発生させ、ヘッドホンを両耳に装着し、左右交互に記録した。電極は耳朶をA1、A2、頭頂部をCz、鼻部をFpzとして各部位に皿電極を設置し、インピーダンスは5 kΩ以下とした。測定条件は増幅器感度10 μV/DIV、高域フィルタ3 kHz、低域フィルタ50 Hz、刺激頻度10 Hz、刺激強度90、70、50、40、30及び20 dB SPL、加算回数1,000回とした。〈BR〉
【【成績】雌性カニクイザル17頭のクリック音刺激(90 dB SPL)時における潜時は左耳でI波1.31 msec±0.14、II波2.12 msec±0.12、III波3.06 msec±0.37、IV波3.74 msec±0.26、右耳でI波1.40 msec±0.15、II波2.29 msec±0.18、III波3.17 msec±0.41、IV波3.76 msec±0.30であった。電位は左耳でI波0.690 μV±0.22、II波1.250 μV±0.33、右耳でI波0.580 μV±0.20、II波1.080 μV±0.37であった。また、測定した17頭の聴覚閾値は30又は20 dB SPLであった。当日はカナマイシン投与の成績についても報告する。