日本地理学会発表要旨集
2008年度日本地理学会秋季学術大会・2008年度東北地理学会秋季学術大会
セッションID: 319
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夏期の関東地方における対流性降水出現日数の経年変動
*澤田 康徳
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抄録
1.はじめに  降水出現の経年変動を論じた多くの研究は,日本および都市規模におけるものであり,(藤部 1998; 佐藤・高橋 2000; 高橋 2003など).関東地方スケールの降水出現に関する経年変動の空間的特徴は明確にされていない.また,夕立や前線性降水など全ての降水を対象とした研究が多く,通常でも降水を出現させやすい総観規模擾乱の有無を考慮する必要がある.降水出現の経年的変化要因は,地球温暖化(Iwashima and Yamamoto 1993)や,都市ヒートアイランド現象に伴う積雲対流活動の強化(Yonetani 1983),などが想定されている.他方,夏期の関東地方における降水出現には,地上風系により形成される収束帯の存在が重要であることが指摘されている(堀江・遠峰,1998;澤田・高橋,2002など).さらに夏期における降水出現の空間的タイプが示されており(藤部 2003),地上風系や降水出現の空間的タイプを併せて降水出現の経年変動を明確にする必要がある.本研究では,夏期晴天日の関東地方における対流性降水出現日数の経年変動の地域性を降水出現の空間的タイプや海陸風などの局地循環を併せて明らかにする.
2.資料・解析方法  資料として1980~2005年の夏期7,8月における,毎時のアメダス降水資料を用いた.まず,09JSTの地上天気図と対象領域(関東地方)における領域平均日照時間(≧5h)から夏期晴天日753日を選定した.さらに,その日に出現した総観規模擾乱の影響を受けない雷雨などの対流性降水(≧1/mm)を抽出した.また,各地点年々における降水出現日成分(各年における対象領域全体の対流性降水出現日数と地点ごとの降水出現日数の100分率)に対しクラスター解析(ward法)を施し対流性降水出現日数の経年変動の類型化を行った.降水出現分布に対しても同様にクラスター解析を施し降水分出現分布型を抽出した.
3.解析  アメダス各地点の対流性降水出現日数の経年変動において,クラスターが結合する場合のクラスター間の距離の指標は,2から3個目の箇所で不連続に大きくなっている.そこでこの段階で結合を中止し,結果として経年変動のパタンを3個に類型化した.対流性降水出現日の経年変動のパタンは空間的によくまとまっており,北部山岳地域とその山麓(_I_),北関東(_II_),南関東(_III_)にそれぞれのパタンが認められる.対流性降水出現日数の経年変動は,北関東山地域およびその山麓(_I_)で増大(減少)していれば,南関東(_III_)では減少(増大)しており,両者間では大きい負の相関関係(r=-0.864)が認められる.クラスター解析によって抽出した降水分布タイプと対流性降水出現日数の経年変動のパタンとの相関は,_I_および_III_では,北関東山地域およびその山麓で降水出現分布が認められるパタンとの出現割合で経年的な相関係数がr=0.841およびr=-0.721と,それぞれ大きい正および負の相関係数が認められた.すなわち,降水分布型として北関東山地域および山麓域で降水が出現する日数が夏期の関東地方における対流性降水出現日数の経年変動に寄与していると考えられる.東京都心部を中心とした南関東(藤部ほか,2002;2003;中西・原,2003),および,北関東(宇梶・中三川 ,1989;堀江・遠峰,1998;澤田・高橋,2002)においても降水の出現には地上風系により形成される収束帯の存在が重要である.従前の研究における議論をさらに延長させると,地上風系により形成される収束帯は,関東地方の南部から北部にかけての領域において相模湾からの南風と鹿島灘からの東~南東風の風系によって形成されることから,これらの相互の関連性が示唆される.ここで,パタン_I_と_III_との降水出現日数の偏差は増大傾向にあり(_I_で増大,_III_で減少),これについて地上風系との観点から考察した.偏差が小さい1980~1984年と偏差が増大した2001~2005年とでは,前者の方が南よりの風速成分は小さく後者では関東地方全域において南よりの風速成分が大きい.すなわち,南関東(_III_)および北関東山地域および山麓域(_I_)における降水頻度の経年変動の相違は,地上風系として,南よりの風の強弱に伴い高頻度で現れる収束帯が変位し,それが関東地方の南北間における降水頻度の経年変動に寄与していることが考えられる.
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© 2008 公益社団法人 日本地理学会
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