抄録
子どもの免疫系は発達段階にあり、大人に比べて化学物質の影響を受けやすくなることが報告されているが、特に、胎児期・乳児期での免疫毒性物質への曝露は、免疫機能の正常な発達に深刻な影響をもたらす可能性が指摘されている。一般に、感染防御において重要な役割を担っている獲得免疫系には液性免疫と細胞性免疫の二つがあるが、ヘルパーT細胞の亜集団であるI型ヘルパーT(Th1)細胞は細胞性免疫に関与しII型ヘルパーT(Th2)細胞は液性免疫に関与する。近年、子どもの免疫発達は、Th1細胞とTh2細胞の機能の関係で議論され、その発達の過程では、Th1/Th2比の均衡がとれた状態で発達していくことが重要と考えられている。Th1/Th2比の均衡がTh2優位に傾くと花粉症やアトピー性皮膚炎、気管支喘息などのアレルギー疾患を起こしやすくなる。このTh2の機能はTh1によって相補的に抑えられるが、いくつかの細菌(又は細菌成分)はTh1反応を刺激し、Th2反応やIgE産生を減少させることが知られている。我々は、これまでにシックハウス症候群の原因物質の一つともいわれるトルエンの成熟マウスへの低濃度曝露が神経系や免疫系をかく乱することを明らかにしたが、本研究では、低濃度トルエン曝露が発達期の免疫系に及ぼす影響を明らかにするためにマウスの胎児期・乳児期にトルエンを吸入曝露し、Th1, Th2バランス形成への影響について検討した。その結果、マウス胎児期の低濃度トルエン曝露はTh1, Th2バランス形成をかく乱することが明らかになった。なお、トルエン曝露とグラム陽性菌細胞壁成分刺激との併用による影響についても検討したので合わせて報告する。