抄録
近年、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、花粉症、食物アレルギーなどのアレルギー疾患の著しい増加が認められ、特に最近はアレルギー発症の低年齢化が指摘されている。この原因には、生活居住環境や生活様式の変化によるダニやカビなどのアレルゲンの増加、花粉飛散量そのものの増加、ディーゼル排気粒子による大気汚染といった環境要因が大きく関与している。一方で、アトピー性皮膚炎の子供には食物アレルギーでもある子供が多いということも臨床的に知られており、乳児アトピー性皮膚炎では実に74%が食物アレルギーを有しているという報告も存在する。このことは腸管免疫の破綻として捉えられる食物アレルギーとアトピー性皮膚炎が非常に密接な関係があるということを示唆している。このような臨床疫学的知見を踏まえると、アレルギー疾患増加の環境要因としての環境化学物質を考える際には、腸管免疫に及ぼす影響を検討する必要があると考えられる。我々は、このような考えに基づき動物実験を行い、環境中に存在する化学物質の中には、生体防御に重要な役割を果たしている腸管免疫システムを破綻させることによりアレルギー感作を成立させてしまう物質が存在することを明らかにした。すなわちダイオキシン(2,3,7,8-TCDD)は腸管IgAレベルの低下や経口寛容の破綻をもたらし、経口摂取抗原による全身性感作をもたらすことが明らかとなった。さらにこの影響は母乳曝露によりダイオキシンを摂取した仔マウスにおいても認められることが示唆されている。本シンポジウムでは腸管免疫破綻の機序などについて成績を紹介すると共に、腸管免疫を切り口にした新たなスクリーニングシステムの必要性と環境化学物質による子供の腸管免疫破綻の健康影響について討論する。