日本トキシコロジー学会学術年会
第35回日本トキシコロジー学会学術年会
セッションID: NS2-5
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ナノマテリアルの評価手法に関する研究の進展
腹腔内投与試験系について
*高木 篤也広瀬 明彦
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抄録
 ナノマテリアルが生み出す新たな物性は、産業的な新しい用途への期待をもたらすものであるが、一方でヒト健康影響に対しては、新たな毒性を生む可能性も含んでいる。その中で、形状がアスベストに類似したカーボンナノチューブについて、その発がん性が危惧されている。アスベスト様の発がん性を調べる動物試験法には、吸入暴露試験・気管内強制投与試験に並行して腹腔内投与試験が従来より用いられてきた。腹腔内投与は、暴露経路が吸入暴露と異なることから、ヒトでの有害性予測に関して過去に議論されてきているが、WHO(2005年)のワークショップでは、有害性同定として考慮する価値のある方法であることが示されている。また、発がん短期試験系として利用されているp53ヘテロ欠失(+/-)マウスのアスベスト腹腔内投与により、短期間で中皮腫が誘導されることが報告されている。今回、我々はこのp53+/-マウスを用い、多層カーボンナノチューブを腹腔内投与することにより、アスベストと同様に中皮腫が誘導されることを初めて明らかにした。すなわち、過去のアスベストやガラス繊維で認められた、形状と大きさに基づく知見の法則性が、炭素を主成分とする繊維にも適用され得る可能性を示したと考えている。現在、繊維数あたりの用量反応性についても調べているところであり、最新の知見についても紹介したい。一方、ガラス繊維など、体内での変性、分解、排泄等がアスベストと比較して相対的に早いものでは、ヒトにおける発がん性は著しく低いか、殆ど認められないことも報告されており、10年単位で見た長期の生体内運命を明らかにすることも重要な研究である。国を挙げてのナノマテリアル産業振興推進による経済的繁栄と国民の安全を同時に満たす最善策として、有害性と暴露(予測を含む)に関しての必要な研究の更なる推進、そして開発・製造者との相互情報交換を逐次する体制の充実が緊要と考えられる。
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© 2008 日本毒性学会
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