抄録
先天性代謝異常症とは、遺伝子変異による酵素異常などによってその代謝経 路が障害 され、酵素反応の基質となる物質の蓄積、生成物の欠乏、側副代謝 経路による代謝産 物の増加などによって様々な症状を示すが、その程度や傷 害される代謝経路によって は全く無症状である場合も存在する。ピリミジン 分解に関与するDihydropyrimidine dehydrogenase (DPD)、 Dihydropyrimidinase (DHD)についてもその酵素欠損症が存在 し、けいれん や自閉症などを呈することが報告されているが、この酵素欠損患者の多 くは 無症状で経過することも知られている。しかしこれらの酵素欠損保因者にピ リミ ジン系抗癌剤である5-fluorouracilが投与されると致死的副作用を生じ る可能性があ る。近年同様の酵素の一種であるβ-ureidopropionaseの欠損 症も報告され、今後注意 が必要である。
第3世代経口セフェム系抗生剤に分類されるcefteram-pivoxil、 cefcapene-pivoxil、 cefditren-pivoxilはグラム陽性菌、陰性菌にも安定し た抗菌力を持ち、ペニシリン耐 性肺炎球菌などにも効果があることから、難 治性中耳炎などの治療に推奨されてい る。これらはエステル型プロドラッグ で腸管壁において活性型抗生剤とピバリン酸に 分解され抗菌力を発揮する が、この際産生されたピバリン酸はカルニチン抱合を受け 尿中へ排泄され る。カルニチンは長鎖脂肪酸をミトコンドリアに輸送しβ酸化へ導く 際に必 要な物質で、β酸化によるエネルギー産生やミトコンドリア機能の維持に重 要 な役割を果たしている。このため、これら抗生剤の長期投与によりカルニ チン欠乏を 生じ、低ケトン性低血糖症、けいれん、意識障害を呈することが 知られている。
これらの薬剤代謝に対し自験例も含め副作用の危険性などについて報告する。