抄録
核内受容体に作用する化学物質のうち、エストロゲン受容体(ES)に作用し、エストロゲン様作用を示すことが知られているビスフェノールA(BPA)は、マウス及びラットにおいて周産期曝露で乳腺の発達、特に、末梢乳腺管の肥厚や過形成を促進させることが最近の実験で示された。そのため、ヒトの乳がん発症や進展に関わる環境因子の一つとして懸念されている。そこで、そのBPA の発がん促進作用の分子メカニズムを明らかにすることを目的として、正常ヒト乳腺上皮細胞(HMEC)におけるBPA の細胞増殖・細胞老化への影響を調べた。HMECの培養には、HMEC(6世代目)をLonza社の乳腺上皮細胞用増殖培地を用いて培養した。8世代目に0.5%ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解した10-9, 10-8, 10-7 MのBPAと、陽性対象として10-9 M のE2を曝露した。溶媒に用いたDMSOのみを曝露したものをコントロールとした。細胞は、10世代目と13世代目に、BrdUの取り込み量により細胞周期の分布の定量を行った。その結果、BPAは、用量依存的に細胞の増殖を促進する影響が認められた。また、BPAの曝露により、S期の細胞が増加し、核の形態観察からアポトーシスを起こしている細胞の割合が減少することがわかった。さらに、ヒト乳がん組織において選択的に発現している遺伝子86個について、mRNA発現量をリアルタイムPCRにより測定したところ、細胞周期関連遺伝子やアポトーシス関連遺伝子の発現量に変動が認められた。今後、この増殖促進作用や遺伝子の発現変動の影響が、個体レベルでの末梢乳腺管の肥厚とどのような関連があるか、詳しいメカニズムを明らかにする必要がある。