抄録
【目的】ヒトプロト型c-Ha-rasトランスジェニックラット (Hras128) にて中期舌がんモデルを構築し、がん予防物質に対する検出能力を評価した。
【方法】Hras128 と SD ラット群を設定。G1 : 20 ppm4NQO を4週間飲水投与。G2(G3) : 4NQO 投与後100(400) ppm nimesulideを混餌投与。G4 : 400 ppm nimesulide を混餌投与。G5 : 基礎食にて飼育。
【結果と考察】G1~3 でdysplastic hyperplasia(DH)と腫瘍(乳頭腫・扁平上皮がん)が誘発され、14週目における Hras128 の DH と腫瘍のmultiplicity は SD ラットの14(28)週目の値より有意に高かった。Hras128において、nimesulide は病変のmultiplicity を濃度依存的に減少させた。Hras128 の舌腫瘍と非腫瘍組織において導入したc-Ha-ras 遺伝子と内在性の同遺伝子に変異は認めず、内在性遺伝子の mRNA 過剰発現は見られなかった。G1 の舌腫瘍組織では非腫瘍組織に比べて PCNA 陽性率と cyclin D1 及び COX2 の mRNA 発現が有意に増加した。Hras128 の G2 と G3 の腫瘍組織において cyclin D1 と COX2 の mRNA 発現が有意に減少した。Hras128のG5)では SD ラットに比べて cyclin D1 の mRNA 発現が有意に減少し、舌腫瘍組織では同発現が有意に増加したことを考慮すると Hras128 において cyclinD1発現が鋭敏になることで発がん剤に対する高感受性を獲得したのかも知れない。Hras128 の発がん高感受性には細胞増殖の促進とがん関連分子発現の活性化が関与し、nimesulide による発がん抑制作用にはこれらの発現抑制が関与していることが示唆された。本システムは舌がんの高感度な動物モデルと考えられる。