抄録
【目的】妊娠母体では妊娠の経過に伴い様々な内部環境が変化し、種々のCytochrome P450の発現が変動することがXi Jun He(2005)らにより報告されている。このことは化学物質暴露に対して妊娠動物と非妊娠動物とでは異なった反応を示す可能性を示唆する。そこで我々は、上記報告をもとに周産期に顕著な減少を示すCYP2E1の代謝により肝毒性を示す四塩化炭素を妊娠及び授乳期ラットに投与した時の肝毒性について検討した。
【方法】11~12週齢のSprague-Dawley系SPFラットを当所で交配し、妊娠12及び18日、分娩日、分娩後12及び26日に四塩化炭素を2000 mg/kgの用量で単回経口投与した(1群5匹使用)。投与24時間後に採血し、AST、ALT、LDH及びALP活性、トリグリセライド、総コレステロール、リン脂質及び総ビリルビンを測定した。また、対照群として14週齢の非妊娠動物(5匹使用)を用いて四塩化炭素投与の24時間後に採血して上記項目を測定した。また、同時に肝臓についてHE染色標本を作製し、病理組織学検査を実施した。
【結果及び考察】
四塩化炭素を投与された妊娠母動物のALT活性は、対照群の最低値(580 IU/L)を妊娠13日では2/5例、妊娠19日では5/5例が下回った。しかし、授乳期間になるとその例数が減少し、授乳1日には3/5例、授乳13日には0/5例、授乳27日には1/5例が下回ったのみとなった。母動物のALT活性の群平均は妊娠13日では対照群の40%、妊娠19日では対照群の4%であり、妊娠の経過に伴って四塩化炭素による肝毒性が軽減した。授乳期間に入るとその値は上昇し、授乳1日には対照群の22%、授乳13日には対照群の120%、授乳27日には対照群の35%であった。同様な推移はAST及びLDH活性についても認められた。これらの変動は、Xi Jun Heらが報告している妊娠に伴うCYP2E1発現の変動と一致するものであった。なお、病理組織学検査について現在実施中である。