抄録
甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)阻害剤であるpropylthiouracil(PTU)及びmethimazole(MMI)の免疫系に対する影響について検討した。
【方法】実験1: 6週齢の雌雄Crl:CD(SD)ラットにPTU(250 mg/kg)あるいはMMI(200 mg/kg)を2週間反復経口投与し,末梢血及び脾細胞のリンパ球サブセット分析を実施した。 実験2: 8週齢の雄性Crl:CD(SD)ラットにPTU(2.5,25及び250 mg/kg)あるいはMMI(2,20及び200 mg/kg)を2週間反復経口投与し,T細胞依存性抗体(抗羊赤血球(SRBC)IgM及びIgG抗体価)産生(TDAR)並びに血漿中IgM及びIgGクラス濃度を測定した。実験1及び2共に,脾臓の病理組織検査も実施した。
【結果及び考察】実験1では,PTU群では主に脾臓の,MMI群では脾臓及び末梢血のT及びB細胞が減少した。実験2では,PTUの全群並びにMMIの中及び高用量群で末梢血リンパ球が減少し,PTU及びMMIの高用量群で抗SRBC IgG抗体価が減少したが,IgM抗体価及び血漿中IgM及びIgGクラス濃度は変化しなかった。脾臓重量はPTU及びMMI群で減少したが,各領域の萎縮は明確ではなく,両実験においてPTU及びMMI群ともに胚中心の発達が認められた。以上の結果から,TPO阻害剤の投与によりT及びB細胞の減少やTDARの低下等の免疫抑制変化が発生したにも係わらず,脾臓では抗体産生の亢進を示唆する組織像が認められた。これらのリンパ球の減少及びTDARの低下と脾臓組織像の関連について現在検討中である。