主催: 日本トキシコロジー学会
日本製薬工業協会 医薬品評価委員会 基礎研究部会 一般毒性課題対応チームでは、遺伝子改変動物を用いる短期がん原性試験(以下、短期試験)の現状とその問題点に関する調査を実施した。加盟68社に調査票を送付し、44社(国内32社、米国系5社、欧州系7社)から回答を入手した。
短期試験については、調査に回答した企業の約7割が発がん性評価に有用であるとの認識を示したものの、通常の発がん性評価に使用している企業は僅か約1割であり、普及していない実態が明らかになった。その主な原因として、バリデーションあるいは背景データの不足(79%)、実施経験がないこと(59%)を挙げる企業が多かった。
ヒトへの発がん性を指標に分類された99化合物において、短期試験とラットの長期試験を組み合わせた場合の発がん性予測率は、げっ歯類2種による長期試験と比較して向上することが報告されている1)。また、短期試験は遺伝毒性が示唆される化合物に対しては発がん性の検出力が高いと考えられているが、同報告ではrasH2マウスを用いる短期試験は非遺伝毒性物質に対しても使用可能と判断しており、rasH2マウスを用いる短期試験とラット長期試験の組み合わせで偽陰性を示した化合物がなかったのは注目すべきことである。
日・米・EUの行政当局も短期試験を推奨しており2, 3)、長期試験と比較して試験期間の短縮、使用動物数および試験費用の削減も短期試験を実施するメリットとして挙げられる。医薬品開発における短期試験の有用性は高いと判断され、その普及を期待したい。
1) J. B. Pritchard et al., Env. Health. Perspect., 111, 444-454, 2003.
2) J. MacDonald et al., Toxicol. Sci., 77, 188-194, 2004.
3) D. Jacobson-Kram, Proceeding for the 5th European Congress of Toxicologic Pathology, 39, 2007.