主催: 日本トキシコロジー学会
医薬品の毒性評価においては、薬物の全身的曝露状況を明らかにし、曝露と毒性知見との関連付けを行うために、トキシコキネティクス試験が有用とされており、広く実施されている。しかし、動物種により組織移行性が異なるケースにおいては、毒性所見を解釈する上で全身的曝露では必ずしも十分ではない場合があり、臓器毒性を評価するにあたっては、臓器内曝露を把握し、それに基づいて毒性試験結果を解釈することが重要であると考えられる。今回、我々は、腎毒性の評価系として汎用されているウサギにおける腎毒性試験結果を適切に解釈することを目的とし、注射用カルバペネム系抗生剤Biapenem(BIPM)及びその類薬を用いて、ウサギにおける腎への曝露量と腎毒性の関連性及び腎排泄機序の検討を試みた。各検体中の薬物濃度測定には、UPLC/MS/MSを用いた。
BIPM及びその類薬を雄性ウサギに単回静脈内投与し、腎皮質中薬物濃度推移を検討したところ、薬物間で腎曝露量(AUC)/投与量比に差を認めたことから、薬物の腎毒性ポテンシャルは、腎への曝露量によって考察する必要があると考えられた。次にウサギにおけるBIPMの腎排泄機序を検討するため、BIPMを雄性ウサギに単回静脈内投与あるいは定速静注した時の薬物動態に及ぼす分泌阻害剤(プロベネシドあるいはベタミプロン)併用時の影響について検討した。その結果、分泌阻害剤の併用によりBIPMの腎クリアランス及び腎皮質中濃度の低下が認められ、BIPMの腎への曝露には能動的な輸送機序の関与が示唆された。一方、臨床においてBIPMの血中動態はプロベネシドの併用によって影響を受けないことから、BIPMの腎排泄機序には種差が存在するものと考えられた。これらの結果を基に、さらに、ウサギでの腎毒性試験結果からヒトにおける毒性予測についても検討を行った。