主催: 日本トキシコロジー学会
【目的】トキシコゲノミクスは薬剤候補化合物の毒性評価に活用できる有用なアプローチである。ラット肝臓の網羅的遺伝子発現データベース(トキシコゲノミクスプロジェクトDB;TG-GATEs)を用いて,薬剤誘発性の胆汁鬱滞に関連した遺伝子マーカー探索と判別モデル構築を試みた。
【方法】陽性薬剤として,胆汁鬱滞を惹起することが知られている5薬剤(α-ナフチルイソチオシアネート,クロルプロマジン,カルバマゼピン,アザチオプリン,エチニルエストラジオール)を選択した。これら5薬剤の各3用量群(溶媒対照,中用量,高用量)につき,3, 7, 14, 28日間反復投与後各24時間の肝臓遺伝子発現データを,また胆汁鬱滞を惹起しない薬剤の全用量・時点の肝臓遺伝子発現データを用いた。判別モデル構築には線形判別分析を用い,F統計量を指標とした前向き属性選択・クロスバリデーション精度を指標とした後向き属性選択によりマーカーprobesを抽出した。
【結果】マーカー候補として39 probesを抽出し,クロスバリデーションによる予測精度94%の判別モデルを構築した。これらのprobesの多くは胆汁鬱滞との関連は不明であったが,酸化ストレスに関連する遺伝子(DUSP1,ALDH1A1)や胆汁鬱滞と関連する遺伝子(CLDN1)が含まれていた。判別モデル構築には利用していないテスト化合物を用いてROC曲線による予測精度を評価した結果,陽性判定率約80%において偽陽性が約25%となる判別モデルであった。今回構築した胆汁鬱滞判別モデルは,創薬の初期段階において開発化合物の胆汁鬱滞ポテンシャルを予測するツールとして利用できる可能性がある。今後は,構築したモデルを他施設でも活用できるかトキシコゲノミクスインフォマティクスプロジェクトにおいて検討する。