抄録
【目的】本研究は肝薬物代謝酵素誘導・肝発がんプロモーターであるPB経口投与による低色素性貧血(Kojima et al, Toxicol Sci 34,
527-539, 2009)の発症メカニズムの一端を明らかにすることを目的とした。【方法】PBを雌性F344ラットに0,8,80mg/kg/日の
用量で1,2または4週間経口投与した。【結果・考察】高用量群における貧血は,投与前半のMCVrの増加とCHCMrの減少で示される
大球性低色素性の網赤血球の増加を特長とし,成熟赤血球も同様の特徴を示した(MCVmの増加とCHCMmの減少)。ところが血漿鉄
及び総鉄結合能は増加しており,十二指腸のフェリシアン化物還元活性とferroportin mRNAの増加で示されるように,腸管におけ
る鉄吸収は亢進していた。鉄の吸収を負に制御するhepcidin mRNAの肝臓における発現や血漿エリスロポエチンには変化はなかっ
た。骨髄では,赤芽球数に変化はなかったが,その鉄吸収や分化成熟に関連するtransferrin receptor 2, iron regulatory protein 2,
erythropoietin receptor及びGATA1/2 mRNAの発現が増加し,一方,globin b mRNAは低下していた。脾臓ではglobin bを含めこ
れら全てのmRNAの発現が亢進した。投与後半では,血漿鉄や網赤血球の増加はみられず,網赤血球の鉄含有量をよりよく反映する
CHrの減少を特徴とした鉄欠乏性貧血様の像を示した。低用量群では貧血は観察されなかった。PBの血中濃度は用量に依存して増加し,
Cmax, AUC0-24は初回投与と4週間投与で差はなかった。以上より,PB投与では貧血に対する代償性反応として十二指腸における鉄吸収
が亢進したが,貧血の発症には骨髄赤芽球におけるグロビン合成の低下による鉄利用障害が関与することが示唆された。