抄録
【目的】近年、コロイダルシリカを配合した衣料お手入れ剤や花粉付着防止剤、銀ナノ粒子を配合した抗菌・防臭剤などの家庭用スプレー製品が市販されている。これらの製品は家庭内で日常的に使用されることが予想されるため、配合されているナノ粒子の安全性が懸念される。そこで、コロイダルシリカ及び銀ナノ粒子のin vitro及びin vivo安全性評価を行った。
【方法】コロイダルシリカ(平均粒子径54.2 nm)及び銀ナノ粒子(平均粒子径159 nm)の分散液を調製した。なお、分散液中のナノ粒子の粒径は、レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定した。これらのナノ粒子分散液を用いて、CHL細胞を用いる細胞毒性試験及び染色体異常試験並びにラット気管内噴霧投与による13週間反復投与毒性試験を実施した。
【結果及び考察】細胞毒性試験及び染色体異常試験において、コロイダルシリカ及び銀ナノ粒子の50% 細胞増殖抑制濃度はそれぞれ153.5 及び1.25 µg/mlで、約100倍の毒性強度の相違が認められたが、どちらのナノ粒子も染色体異常は誘発しなかった。ラット気管内投与毒性試験において、コロイダルシリカ及び銀ナノ粒子は、どちらも一般状態及び体重に変化は見られなかったが、肺の病理組織学的検査では、全葉に同様な病変が見られた。観察された病変は、泡沫細胞集蔟を伴う気管支あるいは肺胞の肉芽腫性炎症、瀰漫性の泡沫細胞が主で、用量依存的に増加した。銀ナノ粒子では肺胞上皮の増生が認められたが、コロイダルシリカでは確認できなかった。どちらのナノ粒子も高用量群でリンパ節に小肉芽腫が認められ、ナノ粒子を貪食したマクロファージがリンパ管を通ってリンパ節まで移動したと考えられた。ナノ粒子の吸入暴露によるヒトへの有害性の評価法として、ラット気管内噴霧投与による肺の病理組織学的検査の有用性が示唆された。