抄録
【目的】カドミウム(Cd)は,出血や精細管壊死を伴う精巣毒性を引き起こすことが知られている。一方,神経成長抑制因子であるメタ
ロチオネイン(MT)-IIIは,脳の他に精巣や卵巣などの生殖器にも発現し,また,システインを多く含むことから銅,亜鉛およびCdな
どの金属と結合することが報告されている。そこで,Cdの精巣毒性に対するMT-IIIの効果をMT-III欠損マウスを用いて検討した。
【方法】雄性MT-III欠損マウスおよび野生型マウスにCd(15μmol/kg)をそれぞれ1回皮下投与し,その6時間,12時間,1日,7日後にエー
テル過麻酔死させ精巣を摘出した。精巣毒性の指標として,精巣出血の有無および病理組織学的な形態変化を観察した。また,Cd投
与6時間後のMT-III欠損マウスと野生型マウスの精巣よりRNAを抽出し,DNAマイクロアレイ法を用いて変動する遺伝子の網羅的解析
を行った。
【結果および考察】Cd投与1日後までMT-III欠損マウスおよび野生型マウスの精巣に時間依存的な出血が認められた。精巣出血の程度を
両マウス間で比較すると,MT-III欠損マウスの方が野生型マウスより軽度であった。投与7日後の精巣出血は,MT-III欠損マウスでは
抑制され,野生型マウスでは投与1日後と同程度であった。病理組織学的な形態変化の観察においても両マウスともにCdによって精巣
障害が認められたが,精巣障害の程度はMT-III欠損マウスの方が野生型マウスより軽度であった。次に,Cdを投与したMT-III欠損マウ
スと野生型マウスの間で精巣での遺伝子発現の変化を網羅的に解析したところ,MT-III欠損により35,852遺伝子中14遺伝子の発現が
増大し,128遺伝子が減少した。以上の結果より,MT-III欠損マウスでは,Cdによる精巣毒性に対して抵抗性を示すことが明らかとな
り,MT-IIIは,Cdによる精巣毒性の増悪化に関与することが示唆された。また,このようなMT-IIIの毒性増悪効果には,マイクロアレ
イ解析で変動が確認された遺伝子が関与しているかもしれない。