日本トキシコロジー学会学術年会
第38回日本トキシコロジー学会学術年会
セッションID: S7-3
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日本薬理学会合同シンポジウム
薬物依存の評価を多角的にみる
薬物自己投与法を用いての薬物への渇望モデルの確立と抗“渇望”薬の評価法としての応用
*山本 経之
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抄録

乱用性薬物の“自己”投与がヒトでの基本的摂取形態である事を念頭におけば、動物を用いての薬物依存に関わる研究戦略として、薬物自己投与実験法がより妥当性の高い方法と言える。この薬物自己投与実験法は、(1)薬物摂取行動の獲得過程、(2)薬物を生理食塩液に切り替えての消去/退薬過程および(3)退薬時での薬物探索行動の再燃過程に分けられる。一方、臨床上の“渇望”誘発要因としては、(1)アルコールや興奮薬等の興奮作用を有する薬物の少量再摂取、(2)薬物摂取時の場所・状況等の視覚的・聴覚的刺激(薬物関連刺激)および(3)重篤な精神的・身体的ストレス負荷の3つが考えられている。ヒトで乱用される薬物はラットでの薬物自己投与行動が成立し、上記の3つの“渇望”誘発要因によりいずれも生理食塩液自己投与下でのレバー押し行動(薬物探索行動)が誘発される。このレバー押し行動は臨床上の“薬物探索行動”を彷彿させる事から、“渇望”の動物モデルとされている。薬物探索行動の発現機構は、薬物の報酬効果のそれに類似しているのか、また3つの“渇望“誘発要因は同一の神経機構を介しているのか-等が興味の持たれる点である。脳内局所破壊法ならびに脳内薬物微量注入法により、薬物探索行動の脳内責任部位は、薬物摂取行動/報酬効果のそれとは異なる事が示唆されている。また薬物探索行動に関与する神経系としてドパミンおよびグルタミン酸神経系を中心に検討されてきたが、誘発要因によって異なる事も明らかにされている。一方、内因性カンナビノイドの脳内報酬系への関与も指摘されている。近年、依存性薬物の渇望発現にはカンナビノイドCB1受容体の活性化が重要な役割を演じている事が明らかにされ、薬物依存症の治療薬開発への新しいシードとなる可能性がある。今後は “渇望”のモデル動物での情動や認知機能の変容にも焦点を当てた多面的なアプローチが必要である。

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© 2011 日本毒性学会
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