日本トキシコロジー学会学術年会
第38回日本トキシコロジー学会学術年会
セッションID: S9-1
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コリンエステラーゼ阻害物質による遅発性の中枢神経毒性
-サリンの臨床から学ぶ動物モデルの機構解析-
イントロダクション: コリンエステラーゼ阻害物質による遅発性の中枢神経毒性−サリンの臨床から学ぶ動物モデルの機構解析−
*菅野 純
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抄録
  哺乳類実験動物を用いた毒性試験の分野では、神経毒性の検出法に永らく末梢神経を主対象とした機能観察試験バッテリー(所謂FOB試験)を充ててきた経緯から、農薬を含む神経作動性化学物質(Neuroactive Xenobiotics; NX)の神経影響は急性毒性であるとの認識が浸透してきていた。
  他方、1981年のウィーゼル・ヒューベルの視覚野機能に関するノーベル生理学・医学賞等で発生・発達期の脳は神経シグナルをその形成と成熟に活用している事が明らかにされながら、毒性学的にはこの様な見地からの遅発性中枢性毒性の評価法の開発が進んでいなかった。我々は、NXによる神経シグナルかく乱が脳の高次構造、高次機能に慢性・遅発性の影響を与える、との仮説に基づき、急性症状の殆ど現れない量のNXを胎生、幼若、或いは成熟期マウスに単回暴露したのち遅発性に情動認知行動の逸脱が誘発されることを、それに対応する物的証拠(海馬等の微細構造、タンパク、mRNA発現の変化)とともに確認している(NXとしてアセフェート(コリンエステラーゼ阻害)の他、ドーモイ酸(グルタミン酸系)、トリアゾラム(GABA系)等についても確認済み)。
  これらの結果から、人に於いても有機リン系殺虫剤等により慢性・遅発性中枢影響が誘発される蓋然性を考察していたところ、黒岩幸雄先生からサリン被曝の症候として、五年間のカルテ保存期間を超えての再診被害者が存在するとの紹介を頂き、早速、本シンポジウムを企画したものである。サリンによる遅発性の神経毒性に関しての詳細な臨床情報をその分野のエキスパートからご教示頂けることは、今後の遅発性中枢神経毒性研究の進展にとって大変有意義である。本シンポジウムが契機となって、毒性学にとって救急医療の現場との密な連絡、日本中毒学会等を含む幅広い臨床領域との連携が重要である、ということが再認識される事を望むものである。
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© 2011 日本毒性学会
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