抄録
Bisphenol A (BPA) は、内分泌撹乱作用を有し、哺乳類の生殖にも悪影響を与えることが報告されている。しかしながら、BPAが生殖細胞にどのような影響を与えるのか、またそのメカニズムに関して、ほとんど明らかにされていない。
胚性幹 (ES) 細胞は、様々な体細胞および生殖細胞にin vitroで分化させることが可能である。
本研究では、マウスES細胞のin vitro 分化系を利用し、BPAが生殖細胞分化に与える影響を明らかにすることを試みた。すなわちBPA存在下で胚様体 (EB) 形成を行い、分化過程における生殖細胞マーカーの発現を経時的に定量リアルタイム PCR 及び Whole mount 免疫染色によって調べた。
その結果、BPA 処理した EB では Stra8, Dazl 及び Dmc1 の遺伝子発現が上昇することがわかった。特に、Stra8 の発現上昇が顕著であり、免疫染色によりタンパク質発現も確認された。以上の結果からBPAが生殖細胞分化に関与する遺伝子発現に影響する可能性が示された。Stra8 はレチノイン酸(RA) によって誘導される遺伝子であるため、EBをRA処理し、BPA処理との比較を行った。RA処理ではRA合成 (Aldh1a2) および分解 (Cyp26b1) に関与する遺伝子発現の上昇が認められたが、BPA処理ではこれらの遺伝子発現は変化しなかった。またRA刺激により発現が上昇することが報告されている (Hoxa1, Rarb) にも変化が認められなかったことからBPAの効果はRAを介した反応とは異なる可能性が示唆された。