抄録
ノニルフェノールポリエトキシレート (NPEO) は家庭及び工業用洗浄剤として広く利用されている非イオン界面活性剤である。これまでに、NPEOは水生生物に対して毒性を持つこと、また、生物分解や光分解等を受け、エチレンオキサイド (EO) 鎖が短くなったNPEOは、その親化合物よりも毒性が増強されることが報告されている。中でも、EO鎖が完全に外れたノニルフェノール (NP)は「内分泌撹乱作用が疑われる化学物質」として環境省より指定されており、その内分泌撹乱作用に関する研究は数多く存在する。しかしながら、NPEO並びにその分解物の遺伝毒性についての知見はほとんどない。本研究では、NPEO及びその光分解物の遺伝毒性を、DNA二本鎖切断 (DSBs)の生成に伴って誘導されるヒストンH2AXのリン酸化に着目して検討した。
ヒト乳がん細胞 (MCF-7)にEO鎖の異なるNPEO (NPEO (n): n=0, 5, 10, 15, 20, 30, 40, 70)を作用したところ、EO鎖n=0から15までは、EO鎖の長さ依存的にH2AXのリン酸化強度が増強した。特にNPEO (15)では作用30分後から非常に強いリン酸化誘導が観察された。しかし、EO鎖がさらに長くなるとH2AXのリン酸化強度は減弱していき、NPEO (70)においてはその誘導がほとんど観察されなかった。一方、NPEO (70)にUVB領域 (280-320nm)の紫外線 (100-1000J/cm2)を照射すると、その照射産物は照射量依存的 (500J/cm2まで)にH2AXのリン酸化を誘導した (さらなる照射は減弱)。同時に、細胞生存率変化及び、DSBsの生成をパルスフィールド電気泳動法によって検討したところ、同様にUVB 500J/cm2を照射したNPEO (70)において、強い細胞毒性及びDSBsの生成が確認された。以上の結果より、NPEOはそのEO鎖の長さによって遺伝毒性が変化することに加えて、遺伝毒性が比較的弱いと考えられるEO鎖の長いNPEOにおいても光照射によって遺伝毒性が増強されることが明らかとなった。本研究はNPEOの遺伝毒性をヒストンH2AXのリン酸化に着目し、詳細に検討した初めての研究であり、NPEOの毒性研究に重要な知見を与えるものであると考えられる。