抄録
【目的】カドミウム(Cd)の経口曝露によって小腸からの鉄吸収が阻害されることが報告されているが、詳細な機序については不明である。我々は先に、Cdを経口曝露させたマウス小腸において、鉄吸収関連分子であるdivalent metal transporter 1(DMT1)、duodenal cytochrome b(Dcytb)、ferroportin 1(Fpn1)およびhephaestin(HEPH)の遺伝子発現が抑制されることやFpn1のタンパク質が減少することを報告した。小腸上皮細胞の基底膜側に存在するFpn1は、肝臓で産生されたhepcidin(Hepc)によって分解促進さることが知られている。今回、Cdによる小腸でのFpn1タンパク質の減少機構の解明を目的として、肝臓中Hepc並びに小腸上皮細胞モデル(Caco-2細胞)の鉄吸収関連遺伝子の発現に対するCdの影響について検討した。
【方法】8週齢雌性のC57BL/6JマウスにCd(50 mg/kg)を単回経口投与し、3および24時間後にエーテル過麻酔下で肝臓を摘出した。別に、Caco-2細胞をCd(5, 10 µM)存在下72時間処理した。各遺伝子のmRNA量をリアルタイムRT-PCR法で、タンパク質量をWestern blot分析で測定した。
【結果および考察】肝臓中Hepc mRNA量は、Cd投与3時間後では変化しなかったが、24時間後において顕著な減少が認められた。Cd曝露したCaco-2細胞において、FPN1のmRNA量およびタンパク質量はともに有意に減少した。また、DMT1、DcytbおよびHEPHのmRNA量の減少も同時に認められた。このとき、Cdによる細胞傷害は認められなかった。以上の結果より、Cdによる小腸FPN1タンパク質の減少にHepcの発現誘導は関与せず、Cdが小腸上皮細胞に直接作用してその遺伝子発現を阻害する結果、FPN1のタンパク質量を減少させることが示唆された。