抄録
【目的】我々はこれまでにバナジウム化合物であるメタバナジン酸アンモニウム(AMV)をマウスに連続経口投与した場合、その毒性が通常食を与えた動物に比べ、高脂肪食を与えた動物の方が強く発現することを見出した。今回、高脂肪食摂取により毒性が増強する機構を解明するための第一段階として、通常食で飼育したマウスにAMVを投与し、その臓器毒性について病理組織学的検討を行った。
【方法】C57BL/6Nマウス(7週齢オス)に通常食(CE-2, クレア)を与え飼育した。AMVを1日1回、0, 10, 20, mg V/kg/dayの割合で5日間強制経口投与した。AMV投与24時間後にエーテル麻酔下でマウスを解剖し血液と臓器を摘出した。血漿を用いて生化学的検査を行った。臓器の一部をパラフィン包埋した後、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色して病理組織学的検索を行った。一部の臓器についてはSudan block B染色(脂肪染色)も行った。
【結果】AMVを10 mg V/kg投与しても体重に変動はなかったが、20 mg V/kg投与により体重が減少し、下痢も認められた。そして4日目に半分の動物が死亡した。生化学的検査を行った結果、AST、ALT、CRE、BUNの上昇が認められた。解剖時の肉眼所見として、肝臓の白色調変化、小腸の膨化および腎皮質の退色が認められた。HE染色の結果、AMV投与により肝細胞、尿細管上皮細胞、消化管粘膜上皮細胞(小腸および大腸)の細胞質内に彌慢性微小空胞化が認められた。また、これら微小空胞は脂質染色で陽性像を示した。従って、バナジウムは生体内における物質の吸収や排出に関連する部位を標的とし、細胞質内の脂質蓄積を引き起こす脂質代謝異常を生じさせる可能性が示唆された。今後、高脂肪食を与えたマウスでの検討を行い、バナジウムの臓器毒性を明らかにして行く予定である。