抄録
カーボンナノチューブ(CNT)は直径100nm以下で、炭素の6員環ネットワークが単層あるいは多層(MW)の同軸管状になった物質で、形状がアスベストに似ているため健康被害を及ぼす可能性があることが報告されている。これまでに、マウスにMWCNTを単回投与すると、長期にわたって炎症・免疫系を亢進、白血球数や抗体産生の増加を報告してきた。今回、炎症・免疫系に関与するサイトカインの動態を検討した。【方法】2%CMCNaに懸濁した2mg/kg MWCNTをICRマウス腹腔内に単回投与し、2、4、10週間後に腹腔内の細胞からmRNAを抽出し、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応でcDNAに変換し、炎症性、Th1、Th2サイトカイン等のTaqManプローブを用いて定量PCRをおこない発現量を比較した。対照としてCMCNaのみ、カーボンブラック(CB)、クロシドライト(Cro:アスベスト)を投与した。発現量はハウスキーピング遺伝子であるヒポキサンチンーホスフォリボシルートランスフェラーゼ(HPRT)との比で、8-20週令の無投与のマウスからのmRNAを1とした。【結果及び考察】MWCNTで、肝臓と横隔膜上で凝集物の形成、肝臓の変形、10週では臓器の癒着も観察された。CBの凝集物は腸間膜や脂肪に観察されたが、臓器の形態は正常であった。Croは肉眼で局在は観察できなかった。MWCNT投与後、炎症性サイトカインのうち、IL1bとMCP-1は10週後でもそれぞれ20倍と40倍と高値が継続していたが、IL6とTNFαは2倍程度であった。Th1サイトカインは増加しなかったが、Th2サイトカインのIL4、IL5とIL13は10週間後でも、それぞれ24倍、63倍、11倍と高値が継続していた。CMCNa、CB、Croではサイトカインの著しい増加は観察されず、MWCNTの作用はCBやCroより強かった。腹腔内へ投与されたMWCNTは、腹腔内で異物を排除する生体防衛システムを刺激し続け、恒常的な炎症性及びTh2サイトカインの産生が、末梢血中の活性化白血球や抗体産生、腹腔内では臓器の癒着などを生じていることが示唆された。