抄録
【目的】抗てんかん薬バルプロ酸ナトリウム(VPA)は、ヒトに多嚢胞性卵巣症候群様の生殖内分泌異常を誘発することが知られている。今回、我々は、ラット培養卵胞を用いてVPAの生殖内分泌に及ぼす影響及びその生殖内分泌異常発現メカニズムについて検討した。【方法】検討1:生後14日の雌ラットから採取した卵胞を24時間前培養した後、VPA(0、0.2及び1.0 mM)を添加し、添加後48時間まで培養を継続した。培養後、培養液中のProgesterone(PROG)、Androstenedione(AND)、Testosterone(TEST)及びEstradiol濃度(EST)を測定し、PROG/AND、AND/TEST及びTEST/EST比を算出した。また、培養後の卵胞についてAromataseの免疫組織化学染色を行った。検討2:検討1と同様の方法でVPA(0、0.04及び0.2 mM)添加後48時間まで培養を継続し、Aromatase発現との関与が報告されているProstaglandin E2(PGE2)について培養液中濃度を測定した。検討3:PGE2分泌に関与しているCyclooxygenase(COX)-1及び2並びに5- Lipoxygenase(LO)に対するVPAの影響を評価した。【結果】検討1:VPAの0.2及び1.0 mMでAromatase発現の低下を伴うAND、TEST及びESTの低下及びTEST/EST比の上昇が認められた。検討2:0.04及び0.2 mMでPGE2濃度の低下が認められた。検討3:VPAによるCOX-1及び2に対する影響は認められなかったが、5-LO活性化傾向が認められた。【考察】ラット培養卵胞にVPAを添加することによりAromatase阻害作用を伴う生殖内分泌異常が認められ、そのメカニズムの1つとして5-LOの活性化に起因するPGE2分泌低下の関与が示唆された。