抄録
【目的】近年、冷凍ギョウザ事件、飲料への農薬混入事件など、食品への有害物質混入事件は社会問題へと広がっている。食品への有害物質の混入、嘔吐毒等の汚染が疑われた際、それら有害物質混入の有無およびその生体への影響について迅速に把握することは重要となる。吐き気や嘔吐といった生体反応は、有害物質に対する初期の主要な生体防御反応と考えられていることから、これら嘔吐反応を指標とし、食品への有害物質混入、嘔吐毒汚染の可能性を迅速に検査する手法としてスンクス嘔吐行動解析およびラット電気生理学的手法の応用について検討した。
【方法】まず、嘔吐実験動物として知られるスンクス(Jic:SUN-Her)に硫酸銅、メタミドホス等を単回強制経口投与し、その後3時間にわたり個別ケージにて行動観察を行い、嘔吐行動について調べた。また、スンクス嘔吐行動観察の効率化のため、スンクス嘔吐時の鳴声の音声解析を行い、嘔吐行動検出を自動化できないか検討した。さらに、電気生理学的手法を用いて、硫酸銅やメタミドホスを、麻酔下で強制経口投与したラット腹部迷走神経活性の変化を解析した。
【結果及び考察】スンクスは、硫酸銅ほか、メタミドホス等の食品に関係する有害物質に対して、嘔吐反応を示すことを確認した。また、スンクスの嘔吐時の鳴声は、音声周波数帯20kHz前後の連続的な細かな音声シグナルを検出することで、自動で検出できることを見出し、音声解析と動画解析を組み合わせたスンクス嘔吐行動自動検出システムを構築した。さらに、メタミドホスはスンクスで嘔吐が見られた投与用量で、ラット腹部迷走神経活性を増大させたことから、メタミドホスの嘔吐発現には腹部迷走神経を介した嘔吐誘発機序が関与している可能性が示唆された。