日本毒性学会学術年会
第39回日本毒性学会学術年会
セッションID: SA2
会議情報

奨励賞
有害金属の毒性に対する防御応答を担う細胞応答システムに関する研究
*新開 泰弘
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

ヒ素やカドミウム、鉛などに代表される有害金属は環境中にユビキタスに存在し、水や食品を介して生体に侵入することでヒトの健康を障害するリスクが懸念されている。一方、生体はそのような有害金属から身を守る感知・応答の適応システムを有していることが考えられるが、その分子機構はほとんど明らかにされていなかった。我々は有害金属の毒性に対する細胞応答の防御機構を明らかにするために、これらの毒性発現の標的となる肝細胞や血管内皮細胞を用いて検討を行い、以下のことを明らかにした。

1. Keap1/Nrf2系の役割
 マウス初代肝細胞に無機ヒ素を曝露すると、転写因子Nrf2が活性化され、下流のγ-グルタミルシステインリガーゼやグルタチオン転移酵素、多剤耐性関連タンパク質などのヒ素の細胞外解毒排泄に関わる酵素群の発現が誘導された。これらの酵素群の発現誘導はNrf2の欠損により消失し、同条件下でヒ素の感受性は増加した。一方、Keap1の欠損による恒常的なNrf2の活性化により、ヒ素の感受性は低下したことから、Keap1/Nrf2系がヒ素に対する防御応答システムとして重要な役割を果たしていることを明らかにした。同様に、ウシ大動脈血管内皮細胞(BAEC)においても、Keap1/Nrf2系がカドミウムの毒性に対する防御応答システムとして機能していることを見出した。

2. 小胞体ストレス応答系の役割
 鉛は細胞内のカルシウムの恒常性を攪乱することから、小胞体ストレスを惹起することが示唆されているが、それに対する防御応答機構は未解明であった。BAECに鉛を曝露すると、Unfolded protein response (UPR) 経路の1つであるIRE1およびJNKのリン酸化レベルが上昇した。同条件下において、小胞体シャペロンであるGlucose-regulated protein 78(GRP78)およびGRP94の顕著な発現誘導が観察された。そこでJNKの阻害剤SP600125またはAP-1の阻害剤クルクミンを前処理したところ、鉛によるGRP78およびGRP94の発現誘導はいずれも抑制された。更に、GRP78をRNA干渉にてノックダウンしたところ、鉛による細胞毒性が増強された。これらの結果より、鉛は血管内皮細胞において小胞体ストレスを惹起する一方で、細胞は鉛に対してIRE1/JNK/AP-1経路を活性化させてGRP78およびGRP94などの小胞体シャペロンを誘導し、当該金属の毒性に対して防御・応答することを明らかにした。

 以上のように、我々は有害金属に対する細胞応答メカニズムの一端を解明した。これらの知見は、有害金属のリスクを軽減するための効果的な生体防御戦略の構築に繋がることが期待される。

著者関連情報
© 2012 日本毒性学会
前の記事 次の記事
feedback
Top