日本毒性学会学術年会
第39回日本毒性学会学術年会
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年会長招待講演
環境毒性学から疾患研究への展開・・・水腎症発症の分子毒性メカニズムの解明
*遠山 千春
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抄録
身の回りの化学物質への曝露が引き起こす毒性の発現メカニズムはほとんど解明されていない。その中で、ダイオキシンは毒性発現に必須の受容体AhRが見出されている数少ない化学物質である。その毒性は、がん・生殖発生異常・免疫機能異常・高次脳機能異常など多岐にわたる。しかし、この多様な毒性現象にAhRが如何に関わっているかは、ほとんど解明されていない。そこで、ダイオキシンによる水腎症に着目して研究を行ってきた。水腎症とは腎盂・実質の拡張ならびに腎実質の破壊を伴う疾患であり、ヒトでも先天的・後天的に発症する。ほとんどの水腎症は尿管閉塞が原因であるとみなされていた。しかし、我々の研究の結果、ダイオキシンによるマウス新生仔の水腎症では尿管閉塞を伴わないこと、また、PGE2合成に関わる誘導型律速酵素COX-2活性を薬理学的に阻害することで発症が抑制されることが明らかになった。さらに、細胞質型フォスフォリパーゼA2a (cPLA2a)ならびに誘導型PGE2合成酵素mPGES-1がダイオキシンによる水腎症に必須であることを、遺伝子欠損マウスを用いて明らかにした。これらから、ダイオキシンによる水腎症発症には、尿管閉塞でなく、PGE2合成経路をダイオキシンが撹乱することで生じる腎機能異常が関与していることが明らかになった。また、cPLA2a欠損マウスを用いた実験により、アラキドン酸カスケードが水腎症発症のメカニズムに重要な役割を果たしていることが判明した。さらに、PGE2合成系の亢進、Na+、 K+ トランスポーターや水チャネルの減少、そして尿量増加を見出した。この尿量増加を、抗利尿ホルモン投与により抑制すると水腎症が生じないことが判明し、ダイオキシンによる尿量増加が水腎症発症の原因であることが明らかになった。今後、このダイオキシン曝露マウスのモデルによる検討を進めることで、Bartter症候群やその他の水腎症の病態の解明にも有用な知見が得られると思われる。
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© 2012 日本毒性学会
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