日本毒性学会学術年会
第39回日本毒性学会学術年会
セッションID: EL1
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教育講演
毒作用発現バイオマーカーとしてのマイクロRNA
*横井 毅
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抄録

マイクロRNA(microRNA, miRNA)は、タンパク質をコードしない22塩基程度の一本鎖RNAで、標的となるmRNAの主に3’非翻訳領域に部分相補的に結合し、分解または翻訳を抑制することにより、タンパク質の発現を負に制御する。 miRNAは発生、分化、増殖、免疫、アポトーシス、ホメオスタシスなど全ての生命現象に関わっている。現在までにヒトでは約1500種類のmiRNAが同定され、その塩基配列には比較的種差が少ないことが特徴である。ヒト遺伝子産物の30 - 60%がmiRNAによる直接的な制御を受け、二次的な影響を含めるとほとんどの遺伝子産物がなんらかの調節を受けている。現在では100種類以上の疾患について、診断バイオマーカーになる可能性が報告されている。薬物動態関連において、in silico解析では、全てのP450がmiRNAによる調節を受けるとされており、実際に我々の研究グループでは、CYP1B1, CYP2E1, CYP24などに対する直接的な調節を見いだし、さらに関連する転写因子であるPXR, CAR, VDR, ARNTなどがmiRNAの影響を受け、さらに下流のtargetの発現調節に影響を及ぼすことを明らかにしている。
 トキシコゲノミクス研究と同様な考えに基づいて、miRNAの網羅的発現解析がmiRNAアレイの機器を活用して行われている。アセトアミノフェンや四塩化炭素、さらにTCDDやB[a]Pについての研究が目立っている。また、免疫学的因子が関与する炎症やエピジェネティックが関与する毒性発現機構を解明する研究も行われている。しかし、1つのmiRNAは多くのtargetに作用し、1つのtargetは多くのmiRNAに制御される可能性があるために、データの評価手法が重要である。
 2008年にmiRNAが血清中に安定的に存在することが報告されて以来、特に癌の研究分野において、非侵襲的な新規バイマーカーとして急速に研究が進展しつつある。尿、唾液、汗など全ての体液が検討対象とされる。我々の研究グループでは、ラットに急性や慢性の様々な肝障害モデルを作製し、病型診断バイオマーカーとしての評価研究を行っている。
 講演では毒性バイオマーカーとしてのmiRNAの研究の現況を幅広く紹介する。

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© 2012 日本毒性学会
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