抄録
免疫系は通常、生体にとって有害な異物を排除するための生体防御システムとして機能しているが、稀に生体にとって有益な異物に対する過剰な反応を示すことがある。その代表的な免疫反応が免疫毒性とも呼ばれるアレルギー反応である。我々はこうしたアレルギー疾患のうち食物アレルギーに焦点を絞り、その発症メカニズムの解析を通じた食物アレルギーの予防・治療法の確立を目指している。
食物アレルギーの病態形成部位である腸管には粘膜免疫システムと呼ばれる精密な免疫システムが構築されており、食餌性成分や腸内細菌など生体にとって有益な異物に対しては抑制型の免疫システムを示すことで、恒常性を維持したまま有益な異物の摂取を可能にしている。腸管免疫システムの恒常性維持機構の破綻により引き起こされる食物アレルギーは近年、乳幼児を中心に患者数が増加しているが、現時点での対処法は原因アレルゲンを含む食物を摂取しないという方法であり、Quality of Lifeの観点からも予防・治療法の開発が待望されている。我々は卵白アルブミンをアレルゲンとして用いた食物アレルギーモデルマウスを樹立し、免疫学的解析を進めている。本アレルギーモデルにおいては、卵白アルブミンで感作したマウスに卵白アルブミンを頻回経口投与することでアレルギー性の下痢が観察される。この下痢症状は一過性の症状であり、感作に用いたアレルゲンと同一のアレルゲンの経口投与が必要なアレルゲン特異的反応であり、その反応には2型ヘルパーT細胞により誘導されるアレルゲン特異的IgEが必須である。さらにはアレルギー性下痢を呈したマウスの腸管組織、特に粘膜固有層には活性化したT細胞やマスト細胞の増加が観察され、その増加を抑制することによりアレルギー性下痢の発症が抑制出来ることも示している。これらの結果から、本アレルギーモデルはヒトの食物アレルギーと非常に近い1型アレルギー疾患モデルとして広く使用されている。
本シンポジウムでは我々がこれまで蓄積してきた食物アレルギーを用いた免疫学的解析について、特にマスト細胞の役割について紹介すると共に、マスト細胞特異的な疾患治療の可能性について報告したい。