抄録
セレンは動物にとって生体必須元素の一つであり、その生体内利用、代謝あるいは毒性はヒトや実験動物を用いて明らかにされてきた。近年では、植物や微生物のセレン代謝についても報告されているが、哺乳類以外の動物綱における生体内セレン代謝に関する情報は少ない。鳥類は哺乳類と同様に生態系の高次に位置し、環境中でのセレンの循環において重要な位置を占めると考えられる。そこで本研究ではニホンウズラに無機および有機セレン化合物を投与し、セレンの体内分布および化学形態を解析した。
WE系ニホンウズラ(オス、5週齢)を一週間馴化後、5 µg Se/mLの亜セレン酸ナトリウム(selenite)またはセレノメチオニン(SeMet)を含む水を1週間自由摂取させた。対照群には精製水を与えた。各臓器・組織および排泄物を採取し、硝酸湿式灰化後、ICP-MSでセレン濃度を定量した。また、肝臓と腎臓の上清、および排泄物抽出液について、HPLC-ICP-MSによりSeの化学形態を分析した。
セレン化合物を投与したウズラでは多くの組織で有意にSe濃度が増加した。また、2つの投与群を比べると、SeMet群の組織中セレン濃度はselenite群の2-5倍の高値を示した。従って、有機セレン化合物であるSeMetはseleniteに比べ生体内利用されやすいと示唆された。HPLC-ICP-MSによるセレン化学形態別分析の結果、肝臓および腎臓の上清においてセレンタンパク質に加え、セレン糖(selenosugars; SeSugs)とトリメチルセレノニウム(trimethylselenonium; TMSe)が検出された。これらは哺乳類において尿中代謝物として知られているが、鳥類でも検出されたことから、SeSugsおよびTMSeの生成は高等動物に共通したセレン代謝経路であると考えられた。また、これらの代謝物はセレン化合物投与により顕著に増加した。排泄物抽出液ではSeSugs、TMSeに加え、複数の未知代謝物が検出された。従って、鳥類は哺乳類と共通の経路の他に、特異的なセレン代謝機構を有することが示唆された。