抄録
過フッ素有機化合物は難分解性,高蓄積性,長距離移動性,人の健康・生態系への有害性という,POPsの性質をすべて備えている物質群であり,最近その環境汚染がとみに危惧されている。この過フッ素有機化合物の人体暴露の主要経路は水道水といわれており,その水源となる河川水中濃度が近畿地方,特に大阪・兵庫地区で高いことが知られている。そこで、今回われわれは大阪・兵庫の六ヶ所から2011年8月から9月に採取した水道水中のパーフルオルオロカルボン酸群(C5~14)とパーフルオロスルホン酸群(CS4, CS7,CS8 and CS10)をLCMSMSで測定し,その結果を2007年の水道水中の濃度と比較した。さらにこの水道水中の濃度変化を2003年と2010年に日本全国の河川から採取した過フッ素化有機合物濃度と関連づけて考察した。2011年の水道水中からはC5~C12とCS4, CS7,CS8 が検出された。そのうちで1ng/L以上のものは,C8,C9,CS8,C6であり,その幾何平均はそれぞれ6.0,4.1,3.6,2.0 ng/Lであった。2007年に大阪・兵庫の六ヶ所から採取した水道水中の濃度ではC8,C9,CS8,C7,C6が高い値を示し,その幾何平均はそれぞれ9.3,2.1,1.1,0.58 ng/Lであった。すなわちこの4年間にC8の濃度は65%に減少し,C6の濃度は3.4倍に増加した。2007年の水道水中のC8,CS8,C9濃度の全国平均値はいずれも2010年の河川中濃度の約20%であったが、C6だけは3.4%と極端に低く,近畿地方においてはC6濃度が全国平均の15倍と極端に高いため、この割合は2.3%とさらに低かった。このことからC6の環境中への放出が最近始まり、河川水を汚染し、水道水汚染へと向かっていることが明らかとなった。