抄録
過フッ素有機化合物は難分解性,高蓄積性,長距離移動性,有害性(人の健康・生態系)という,POPsの性質をすべて備えている物質群であり,最近その環境汚染がとみに危惧されている。今回われわれは大震災津波の三陸沖海水中の過フッ素有機化合物汚染に与えた影響を検討する目的で,震災後の2011年8月から9月に三陸沖の35地点から採取した海水中のパーフルオルオロカルボン酸群(C5~14)パーフルオロスルホン酸群(CS4, CS8 and CS10)をLCMSMSで測定した。結果は2003年に同じく三陸沖で測定したC8, CS8濃度と比較した。さらにこの海水中の濃度の変化を2003年と2010年に日本全国の河川から採取した難分解性有機フッ素化合物濃度と関連づけて考察した。2003年の海水中のC8とCS8の濃度は測定限界値以下であったが,震災後の海水中ではC5~C12及びCS6とCS8が検出された。そのうちC8,C6,C9,C10の濃度が高く幾何平均値はそれぞれ0.68,0.18,0.14,0.11 ng/Lであった。2003年から2010年にかけて,河川水中のC8とCS8の濃度はそれぞれ5.4から3.2 ng/L及び2.1から1.0 ng/Lと減少傾向を示し,北海道東北地区ではC8の濃度が1.1から0.72 ng/Lと減少傾向を示し,CS8濃度は1.2から0.1 ng/Lと明らかな減少を示していた。以上の結果から、東北大震災津波によって、陸上の過フッ素有機化合物が海に運ばれ、海水汚染を引き起こしていることが明らかとなった。