抄録
【目的】船底塗料等に用いられてきたトリフェニルスズ(TPT)は、胸腺萎縮に伴う免疫不全を引き起こすことで免疫毒性を示すことが報告されている。しかし、TPTの免疫系に対する特異的な作用やその詳細な作用機構については不明な点が多く残されている。一方で我々は、TPTが脂肪細胞分化の主要な制御因子である核内受容体Peroxisome proliferator-activated receptor (PPAR)γの強力なアゴニストとして作用することを明らかにしてきた。また胸腺は加齢により脂肪化を伴って退縮することが知られているが、最近PPARγの慢性的な活性化が、胸腺を脂肪化・萎縮し加齢化を促進することが報告された。このことは、PPARγを慢性的に活性化する化学物質が、胸腺の加齢化を促進する可能性を示唆している。そこで本研究では、TPTが胸腺の脂肪化・萎縮及び免疫系に及ぼす影響について検討を行った。【方法】16週齢の雌マウスに、セサミオイルに溶解したTPT(10 μmol/kg/day)を14日間連続で経口投与した後に解剖し、臓器重量を測定した。その後胸腺、脾臓、肝臓、脂肪における脂肪化に関連する遺伝子のmRNA発現量をリアルタイムRT-PCR法により評価した。また、胸腺、脾臓を摘出後、単細胞化して細胞数をカウントするとともに、フローサイトメトリー法によりリンパ球サブセットの解析を行った。【結果および考察】TPT投与により有意な胸腺重量の減少、脂肪重量の増加が認められた。また胸腺、脂肪においてaP2、CD36 の有意なmRNA発現量増加が認められた。リンパ細胞数については胸腺および脾臓で細胞数の有意な減少が認められた。さらに、リンパ球サブセット解析を行ったところ、TPT投与群の脾臓においてCD3陽性ナイーブT細胞の割合が減少する傾向を示した。以上の結果から、TPT曝露により胸腺の脂肪化・萎縮が促進されることで、末梢においてリンパ球ポピュレーションが変化し、免疫機能の加齢化が促進される可能性が示唆された。