抄録
【目的】薬物代謝や発がん性物質研究の為に実験動物を用いて多くの変異原性試験が開発されているが、薬物代謝酵素の発現パターンや発現制御機構は動物種によって異なる為、ヒトへの影響を知る上で重要な個人差を考慮することが難しい。本研究では、実際のヒト肝組織を用いた変異原性試験を行い、さらに薬物代謝酵素の発現の個人差について比較検討した。【方法】当分野で凍結保存している肝組織(剖検・手術例)からS9を採取してAmes試験、染色体異常試験に用いた(東北大学医学部倫理委員会承認済)。被験物質はアクリルアミド、2-アミノアントラセン(2-AA)、ベンゾピレン(B[a]P)およびシクロホスファミド (CP)を用いた。Ames試験にはTA98およびTA100株を使用し、染色体異常試験にはCHL/IU細胞を用いた。また同症例のホルマリン固定パラフィン包埋標本からHE染色標本を作製し、病変の有無を確認し、免疫組織化学にてCYPを評価した。さらに肝組織からRNAを抽出し、定量的PCRにて解析を行った。変異原性試験および病理学的所見の結果と各遺伝子の発現プロファイルの個人差の比較検討を行った。【結果および考察】Ames試験の結果、アクリルアミドはすべての症例において陰性であったのに対し、2-AAおよびB[a]Pは個人差が見られた。染色体異常試験の結果、アクリルアミドは高濃度下ですべての症例において陽性で、CPの陽性は2例であった。免疫組織化学においても局在に個人差が見られた。またAmes試験の結果を基にグループ分けし、定量的PCRの結果を解析すると、2-AAおよびB[a]P陰性症例がこれらの代謝活性に関与するCYP1Aの発現が低い傾向が見られた。CPの代謝活性に関与するCYP2B6の発現も同様であった。実際のヒト組織を用いてその発現プロファイルや個人差を明らかにすることは重要と考えられる。