抄録
情報伝達および毒性に重要な役割を果たす分子である過酸化水素は、グルタチオンペルオキシダーゼ(GPx)、カタラーゼ(CAT)、ペロキシレドキシン(Prx)等の代謝酵素によって代謝され、細胞内濃度が低く保たれており、酸化ストレス時には、これらの酵素は、核内レセプターであるNuclear factor-E2 p45-related factor (Nrf) 2により制御されている。今回の研究では、文献データを基に、過酸化水素の細胞内取り込み、過酸化水素の代謝、レドックス分子の代謝およびNrf2応答の過程を組み込んだ、生化学的モデルを作製し、種々の過酸化ストレス下における細胞内の過酸化水素、NADPH、NADP、GSHおよびmRNA濃度について、数値解析により用量反応および推移を解析した。その結果、定常状態における細胞内の濃度は、それぞれ、超線形、恒常的、シグモイド、ベル型および疑似線形の用量反応を示し、その定常状態に至るまでの推移は、過渡応答を示した。作製した生化学的モデルから、リバースエンジニアリング的にネットワークモチーフを作製し、その制御機構を解析した結果、ネガティブフィードバック回路、飽和エッジ、ヒル関数および二重ネガティブフィードバック回路等が定常状態における用量反応に対して重要な役割を果たしていることが判明した。また、過渡応答には、緩衝ノード、インコヒーレントなフィードフォワード回路等が重要な役割を果たしていた。