抄録
【背景と目的】ペルフルオロオクタン酸(PFOA)は、化学的に安定で環境中に長く残留することに加え、ヒトにおける生物学的半減期が極めて長いことから、ヒトの健康への影響が懸念されている。工業的に使用されてきたフッ素系界面活性剤には、炭素数のより長い化合物も混在し、環境中からも検出されている。我々はこれまで、実験動物において炭素鎖長の長いペルフルオロカルボン酸は、より生体に残留しやすいこと、また、体内分布が異なることを報告してきた。本研究では、炭素鎖長が12のペルフルオロドデカン酸(PFDoA)について、ラットにおける体内分布と生体作用を明らかにすることを目的とした。
【実験方法】10週齢のWistar 雄性ラットに対し、皮下投与または混餌によりPFUAを摂取させた。皮下には、5または20 mg/kg のPFUAを1日1回、5日間投与した。また、げっ歯類用の配合飼料(CE-2、日本クレア)にPFDoAを0.01または0.05%の割合で混合し、5日間自由摂取させた。ラットから血液及び組織を採取し、液体窒素下で保存した。血清及び種々の組織中のPFDoA量を、蛍光誘導体化-HPLC法により定量した。また、肝臓および血清中の脂質を抽出し定量した。さらに、肝臓からRNAを抽出し、real time PCR法により遺伝子発現量を検討した。
【結果・考察】PFDoAは主として肝臓に分布し、血清との濃度比はPFOAやペルフルオロデカン酸に比べて高かった。また、PFOAは脂肪組織や脳にはほとんど移行しないのに対し、PFDoAは両組織にも蓄積しており、血清濃度との比が0.2、0.7と高い値を示した。一方、PFOA投与時に認められる肝臓の肥大はほとんど認められなかった。一方、PFUAを摂取したラットの肝臓にはコレステロールとトリグリセリドの蓄積が認められたがリン脂質量は変化がなかった。以上の結果から、PFDoAはPFOAとは異なる体内分布と生体作用を示すことが明らかとなった。