抄録
非晶質ナノシリカ(nSP)は、食品添加物として認可されているなど、食品分野で実用化されている代表的なナノマテリアル(NM)の一つである。一方で、周知の通り、近年になってNMの安全性が世界的に懸念され始めており、NMの安全性評価が急務となっている。しかし、NMのハザード情報のみが先行しているのが現状であり、このままではハザード風評被害によって有用なnSPまでもが利用制限されかねない。すなわち、nSPの安全性を科学的に判断するためにも、nSPのリスクをハザードと曝露量/時間の積算で理解する必要がある。本観点から我々は、これまでに透過型電子顕微鏡を用いて、nSPの曝露実態を定性的に解析し、nSP70が血中移行する可能性を報告してきた。本検討ではnSPを経口曝露した際の体内吸収性の定量解析に挑戦した。粒子経が70 nm、1000 nmの非晶質シリカ(nSP70、mSP1000)を28日間経口投与した際の組織移行性を高周波誘導結合プラズマ発光(ICP-AES)解析により定量評価した。その結果、いずれの組織においても、ケイ素由来のシグナルは殆ど検出できなかった。これは、元々生体中に含まれるケイ素由来の強いシグナルがバックグラウンドとして検出されたことによるものと推察された。そこで次に、ラット腸管反転法を適用し、nSPの消化管吸収性に関する定量的な基礎情報の収集を図った。その結果、nSP70は約1.7%、mSP1000は約0.3%が透過し、その透過量は、経時的に増大した。以上の結果から、本実験系は主として受動拡散経路の定量評価ではあるものの、nSPの吸収量を解析するための有用なツールになり得るものと期待された。現在、nSPの消化管透過機構について能動拡散経路の観点からも追求することによって、nSPの消化管吸収予測方法の最適化を進めている。