抄録
目的:アンドロゲンは、哺乳類の生殖器官形成や性分化に重要な役割を果たしている。近年問題となった内分泌かく乱物質では、抗アンドロゲン作用を示す化学物質がいくつか報告されており、これらの化学物質が特に胎児期や発達期に曝露することで性分化や生殖機能に異常を誘発する可能性が懸念されている。しかしながら発生発達段階におけるアンドロゲンの詳細な作用点については不明な点が多い。そこで本研究ではアンドロゲンの詳細な作用点を解明するために、胎児期からアンドロゲン曝露を受けるモデルマウスとして、アンドロステンジオン (A4) をテストステロン (T) に変換する17β位水酸化ステロイド脱水素酵素3型 (17βHSD3) をCre依存的に発現する17β3マウスの作製を試みた。齧歯類では特に胎児期の胎盤においてA4が高産生されることから、本モデルマウス系では胎児期でのT曝露が期待される。
方法・結果:17β3マウスは、CAGプロモーターの下流にルシフェラーゼ (luc) 遺伝子と17βHSD3遺伝子を連結し、さらにluc遺伝子の上流と下流にそれぞれloxP配列を配位した遺伝子を用いて作製した。このマウスをライン化し、導入遺伝子の活性が高いマウスを選別するためにそれぞれのラインの各臓器についてluc活性を検討したところ、luc活性の最も高い17β3/1マウスを見出した。この17β3/1マウスと全身でCreを発現するCreマウスと交配させ、生後3日目におけるCreによる遺伝子の組み換えの確認および肛門生殖結節間距離 (AGD) の測定を行った。その結果、遺伝子組み換えが起こった雌仔マウスは組み換えが起こっていない雌仔マウスに比べてAGDが長く、雄仔マウスと同等のAGDに伸長した。以上より17β3マウスは、Cre依存的にT曝露を受けて雄化することが示され、アンドロゲン曝露の影響を検討するための有用なモデルとなることが示唆された。