抄録
【目的】哺乳類培養細胞を用いる染色体異常試験(以下、染色体異常試験)では、本試験の前に最適な用量を設定するために細胞増殖抑制試験を実施するのが通例である。特に新ガイドライン(S2(R1))では、毒性のある用量は解析対象外となることから細胞増殖抑制試験の結果によって遺伝毒性の判定が左右されるケースも出てくることが予想される。しかしながら、細胞増殖抑制試験の測定法ついてバリデートした報告はほとんどない。従って、我々は細胞増殖抑制試験でよく使用される血球計算盤法およびモノセレーター法に加えて、サテライト群を必要とせず少量の細胞で細胞毒性が測定可能なコールターカウンターを用いた測定法及び細胞内ATP量測定法の合計4種類の測定方法について、比較検討を行なった。
【方法】60mmシャーレに播種したCHL細胞に、染色体異常誘導能や細胞毒性を有する化合物の評価を24時間暴露して、各種細胞増殖抑制試験法でIC50値を求めた。
【結果および考察】死細胞や薬物の析出物があるケースを除くと血球計算盤法とコールターカウンター法の細胞増殖抑制の程度はほぼ一致した。しかしながら、薬物の析出や死細胞がないケースでも、モノセレーター法及びATP法は、血球計算盤法より細胞の増殖抑制の程度が弱くなる化合物が多く認められた。そこで細胞の直径を測定したところ、増殖抑制が弱くなる用量では細胞が肥大していることが分かった。よって、上記のケースは、細胞が肥大したためモノセレーター法では細胞に取り込まれる色素量が増加し、ATP法では肥大した細胞を維持するために細胞内ATP量が増加したため、みかけの細胞数が多くなったと示唆された。従って、細胞増殖抑制試験の測定法を選択する場合には、薬物の析出や死細胞の混入だけでなく、薬物誘発性の細胞肥大についても考慮して、測定法を選択する必要があると考えられた。