抄録
平均粒子径がナノメートルオーダーに加工された非晶質シリカ粒子(nSP)は、今日では医薬品、食品および化粧品の添加物として広く用いられているが、その生物学的影響についてはまだよくわかっていない。
我々は、生体に暴露されたシリカ粒子が最初に接触する場所は細胞膜であるという観点から、nSPが細胞膜に存在する機能分子、特にトランスポーターに影響するのではないかという仮説に基づいて研究を行っている。マウス白血病由来L1210細胞に低濃度のアドリアマイシン(ADM)を長期間処置することにより樹立した多剤耐性L1210/ADM細胞は、abcb1aトランスポーターを発現し、ADM排出能を獲得していることが確認された。このL1210/ADM細胞を用いてADM排出能を調べたところ、平均粒子径が1 µm以上のシリカ粒子(mSP)はADM排出を阻害しなかったが、nSPはADM排出を用量に対応して阻害した。赤色蛍光色素を封入した平均粒子径50 nmのnSP(nSP50-RITC)をL1210/ADM細胞に処置したところ、細胞膜近傍に局在することが観察された。また、nSP50-RITCを処置したL1210/ADM細胞を用いてabcb1aの免疫組織化学的解析を行ったところ、nSP50-RITCとabcb1aは共局在していることが示唆された。
以上の結果から、L1210/ADM細胞において、nSPはabcb1aと相互作用することにより、ADM排出を阻害することが示唆された。