抄録
【目的】脳の性分化における臨界期は外来性エストロジェン(E)に対する感受性が高い時期と考えられている。我々は本学会第38回学術年会において、新生雌ラットにエチニルエストラジオール(EE)を投与すると比較的若齢で性周期の回帰を停止して連続発情に至り、乳腺過形成、肝臓および下垂体重量の増大が認められることを報告した。今回我々は、これらの動物の内分泌系における遅発性影響の有無を知るため、血清中性腺刺激ホルモン濃度測定、ならびに肝臓および子宮におけるE応答遺伝子の定量解析を行ったので報告する。
【方法】日本チャールスリバーから購入したCrl:CD(SD)系妊娠ラットから自然分娩により得られた雌ラットに1日齢からEEを0(コーン油10 mL/kg/day)、0.4、2.0 μg/kg/dayの用量で5日間反復経口投与し、21日齢で離乳後、性周期を観察し22-23週齢で剖検して試料を得た。遺伝子発現解析では肝臓および子宮から総RNAを抽出し、CYP3A9およびプロジェステロン受容体(PR)をコードするmRNAについてリアルタイムRT-PCRにより定量解析した。CYP3A9は別に同様の処置を行い、膣開口日に剖検し採取した試料も解析した。また、ラジオイムノアッセイにより血清LHおよびFSH濃度を測定した。
【結果・考察】EE投与群では膣開口日の肝臓におけるCYP3A9発現に差はみられなかったが、22-23週齢ではEEの用量に依存して低下し、子宮でのPR発現も低下した。これらの遺伝子はEにより直接、あるいは間接的に誘導されるため血中E濃度の低下が疑われたが、Eのフィードバックを受ける血清中LH濃度には差がみられず変化に一定の方向が認められなかった。一方、血清FSH濃度はEE投与群で増加し、LHとは異なる動向がみられた。卵巣重量が低値を示し、嚢胞状卵胞が認められた動物で血清中FSH濃度が上昇していたことから、卵巣からのインヒビン等による抑制刺激の減弱が考えられた。本研究の一部は厚生労働省科学研究費の補助を受けた。