抄録
【緒言】毒性試験では,採血あるいは血漿の分離操作によって溶血が起こり,血液生化学的検査結果に影響を及ぼすことがある。血液生化学的検査結果への溶血の影響は古くから知られており,これまでに数多くの検討結果が報告されてきた。しかし,これらの報告は,いずれも目視による溶血の有無あるいはヘモグロビン濃度を指標にした検討で,毒性試験の結果を評価する上で実用的とは言えなかった。今回我々は,測定値が溶血の影響を大きく受けることが知られている血漿中乳酸脱水素酵素(LDH)活性を指標にして,血液生化学的検査項目に対する溶血の影響を検討した。
【方法】雄性ビーグル犬のヘパリンNa処理血液を試料とした。動物から溶血しないように注意深く採血し,血液を2分割した。一方は血液を凍結して溶血させた後,遠心分離して溶血血漿を得た。他方は,溶血させずに遠心分離して非溶血血漿とした。これら溶血及び非溶血血漿を割合を変えて混合し,自動生化学分析装置で血液生化学的検査項目を測定した。各項目に対する溶血の影響は,血漿中LDH活性との相関性及び一次回帰式により解析した。
【結果及び考察】血漿中LDH活性は溶血血漿の混合により明らかに上昇し,溶血血漿を2%混合した場合,非溶血血漿に比較して約7倍の活性を示した。血漿中LDH活性と良好な相関性を示した項目として,血漿中アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ及びクレアチンキナーゼ活性並びに総ビリルビン濃度などがあり,これらの項目は,溶血時の血漿中LDH活性の変動率と比較してその1/4から1/10程度の変動を示した。一方,LDH活性との相関関係がほとんどみられない検査項目は,血漿中アラニンアミノトランスフェラーゼやグルタミン酸脱水素酵素活性などであった。これらの知見は,毒性試験の血液生化学的検査値における溶血の影響を考察する上で,有用な情報と考えられた。